
微積や三角関数どころか、ルートの計算や因数分解すら何も記憶が残っていない。
大学で文系学部を選んでしまうと、高校時代以降は、全く数学に触れる機会がないのが日本の現実だ。
せっかく統計学やプログラミングに興味を持っても、数学的素養がないばっかりに、教科書に載っている数式が全く理解できず、勉強や夢を諦めてしまった人もいるだろう。
僕もそんな典型的な文系社会人の一人だった。
しかし、仕事上の必要に駆られて、2年ほどかけ数学をコツコツ勉強し、ついにはめっちゃ数学を使う専攻の米大学院への進学を決めた。
そこで、自分の経験から、「数学の記憶ほぼゼロ」の状態でスタートして、高校数学を一気に復習し、大学数学を“それなりに”身に着けるための参考書たちを紹介する。
今回は、どの分野の勉強をしようと常につきまとう「微分積分」を取り上げる。大学レベルでは解析学と呼ばれたり、アメリカではCalculusと呼ばれたりする。
レベルとしては、「統計学の勉強がスムーズに始め&進められるだけの数学力」を身に付けることを想定し、参考書を選定した。
統計学に必要な数学は、今回紹介する微分積分と、線形代数が二大分野と言える。
数学に悩む文系社会人や、大学生になってから計量的学問に興味を持ってしまった文系諸兄にちょうど良いのではないかと思う。
「文系でも分かる!」系の本は1回読んだら次に行こう
高校で数学におさらばできたかと思いきや、社会人になってなお、数学の知識が必要になるシーンが意外とある。
経営分析からマーケティングまで、ビジネスシーンでは統計や数学の用語が想像以上に飛び交っている。
ビジネス書や雑誌の中には、こうした数学に課題意識のある社会人向けに、微分積分の特集が組まれたり、「猿でも分かる統計学〜」的なコンテンツがあふれている。
これらが興味を持つためのイントロダクションとしては優れているのは間違いない。
しかし、薄っぺらなコンテンツを繰り返し読み込んでみても、あまり得るものはないので、そうした書籍に時間をかけ過ぎてはいけない。あくまでイントロとして活用するものだと考えよう。
数学の知識は積み重ねであり、中学数学の知識が高校数学へ、高校数学の知識が大学初級数学へ、そして大学初級数学の知識が統計学などの応用分野の素地へと繋がっていく。
たとえば統計学の「仮説検定」についてだけ、どれだけ分かりやすく説明してくれる書籍があっても、微分積分や確率などの素養がなければ、実際の問題に直面するとチンプンカンプンだし、他の書籍を理解できる速度と精度にもあまり貢献しないだろう。
結局のところ、基礎から順序立てて勉強していき、幅広い知識を身に付けることが、最後に目標とする地点へたどり着く最短ルートなのだ。
理系経験者が紹介している本は大抵難しすぎ
「統計学 参考書」とか、「微分積分 線形代数 分かりやすい」などとググると、「数学初心者向け」などと謳って参考書を紹介しているブログが多数見つかる。
大抵の場合、統計分野であれば必ず紹介される2〜3冊があり、「そんなにいい本なんだ!」とやたらと本を買い込んでいる人も多いのではないか。
例えば東大出版の統計学入門がいい例だ。実際には紹介者が使っていなくても、「定番はコレ」とか言ってなぜか必ず紹介される。統計検定2級対策として挙げられることも多い書籍だろう。
しかし、ハッキリ言って、初学者の文系人間には難しすぎて全く歯が立たないはずだ。
そういうレビューをよく見てみると、なんだかんだで昔理系学部に所属していた人だったり、現役のエンジニアであったり、既に予備知識がある人の話であることに気づく。
定番として挙げられる昔ながらの教科書よりも、よっぽど分かりやすく書かれており、初学者に適した本は沢山存在する。
「自分に近いレベルの人」が紹介している書籍を参考にすることが何より大事だ。
その意味で、この記事は本当に高校以来数学に触れていない文系人間が実際に使った参考書だけを紹介しているので、安心してほしい。
何はともあれ三角関数はめちゃくちゃ重要
sinやcosなどの三角関数は、高校で数2Bまでしかやっていないと実感しにくいが、数3や大学レベルの数学になると、超高頻度で登場する。
微分積分や線形代数などの統計学に必要な数学の勉強をする上でも必須of必須なので、絶対に習得しておきたい。
加法定理や2倍角の公式など、スラスラと思い出せるようになっていなければ、大学数学の勉強を進める上でも非効率だ。
したがって、とにかく早い段階で三角関数について深い理解を獲得しておこう。
オススメの参考書は、大学受験参考書で有名な坂田アキラシリーズだ。
全く知識がない状態でも読むことのできる非常にわかりやすい大学受験参考書だ。
坂田アキラ氏は予備校講師で、その参考書のわかりやすさには定評がある。
文系社会人に嬉しいポイントは以下のようなものだ。
- 途中式に省略が少なく、数学が苦手な人でもスラスラ読める
- それぞれの式変形をできる理由が、吹き出しやイラストで豊富に補足されており、理解が深まる
- 話し言葉で超丁寧に書かれていて、読み始めのハードルが低い
三角関数は特に薄い本なので、1日で終えられるだろう。まとまって時間が取れるときにやるようにして、2〜3周しておけば、今後の勉強の足腰になってくれるはずだ。
高校の微分積分をサクサク終わらせるための参考書
今度は高校の微分積分を習得しよう。
これまた大学受験参考書を活用するとスムーズだ。
日本は受験産業が発達しているおかげで、非常に質の高い参考書が、安く手に入るのが嬉しい。
数学を子どもでも分かるように懇切丁寧に解説してくれる本がたくさんあるので、数学(の基礎)を勉強するハードルは他の国より低いと思う。
三角関数と同じく、微積の前提知識がなくても読み進められる坂田アキラシリーズがおすすめだ。
数2の範囲である微分積分と、数3の範囲である微分積分に分かれているので、両方やっておくと良い。
特に数3の微分積分は、とても分厚い書籍で、大学受験参考書としては比較的高価な3千円近い値段がする(それでも安い!)。
その分厚さは、非常に丁寧な解説が山ほど入っていることによるものだ。一つの問題の解答方法の解説が数ページにもわたり、一行たりとも「分からない」を残さないこのシリーズは本当に素晴らしい。
問題を解くというよりは、「理解しながら通読する」という意識で、どんどん読み進めよう。
流石に三角関数よりはボリュームが大きいが、ゴールデンウィーク1回分くらいの時間投資でクリアできるだろう。
働きながら、休日も予定があるならば、1〜2ヶ月は要するといったところだろうか。
数学的な厳密性や、証明がちゃんと載っているかということも重要であるが、それはもっと勉強を進め、数学を好きになってから学べば良い。
まずはとにかく分かりやすい参考書をサクサク進めて、微分積分への抵抗感をなくしていくのが大事だ。
ここまで進めれば、大学数学の参考書を進めることができるだけの実力を身につけたと言って良いだろう。
大学の微分積分の参考書は解説の丁寧さで選ぶ
大学レベルの微分積分は、大きく分けて「一変数関数の微積」と、「多変数関数の微積」に分けられる。
それぞれ日本の教科書等では解析学1、解析学2などと呼ばれていることが多く、アメリカではSingle Variable Calculusとか、Multivariable Calculusなどと呼ばれている。
前者は、ざっくりsinやcosなど三角関数の微積が複雑になったやつとか、置き換え積分が難しくなったやつとか、高校数学の延長上にあるものだと思えば良い。
後者の多変数関数の微積は、その名の通り、xとyの両方で(2変数で)微分するとか積分するとか、なんか変な経路で積分するとか、割と新しいことを学ぶイメージだ。
初学者の場合、高校数学から無理なく接続してくれる優しい解析入門の参考書から始めるのがオススメだ。
大学レベルの参考書や教科書は、受験参考書ほどは優しく丁寧に書かれていないので、自分のレベルを大きく超える書籍に手を出すと、時間ばかり浪費して得るものが少ないからだ。
価格¥5,170
順位132,191位
著S.ラング
翻訳松坂 和夫, 片山 孝次
発行岩波書店
発売日03/23/1978
そんな中でも、本当に高校の数学の復習から始めてくれる分かりやすい書籍として、サージラングの解析入門が挙げられる。
古臭いデザインや印刷で、和訳版の言葉遣いも堅いため、ハードルは高そうに見えるが、予想以上に丁寧な解説が盛り込まれているのだ。
1冊目の「解析入門」は、整数や分数の復習から始まり、大学の一変数関数の微分積分までカバーしている。
2冊目の「続・解析入門」は、2変数関数の微分積分など発展的な内容になっている。
この書籍がちょうど、参考書が噛み砕いてくれていた高校数学の世界から、ある程度証明の厳密性を追求する大学数学の世界への橋渡しになってくれるように思える。
ラング解析入門は、数学書の中ではかなり優しく書かれている方だが、重要な点はしっかり証明が記されている。
ちなみに英語版の方が、値段も倍以上して、ページ数も和訳版より圧倒的に多いが、解説がさらに丁寧なので、英語を読むのに抵抗がなければそちらを使う方がお勧めだ。
ラング解析入門を終えておけば、統計学の勉強をする上では暫く困ることはないだろう。文系社会人の一つの到達点なのではないかと考える。
一方、ラング解析入門の古臭さや堅い説明がどうも理解できない、という人は、石井俊全氏の「大学の微分積分」も良いと思う。
ラング解析入門よりは証明が省かれている点もあるため、本格的な数理統計の勉強を始めた際に、結局ラング解析入門を一部参照しなくてはならないこともあるかもしれない。
とはいえ、スムーズに高校数学から大学数学へのレベルアップに導いてくれる参考書としては、かなり上位にランクインするだろう。マセマよりは解説が厳密で、ラング解析入門よりは適当といった中間地点のイメージだ。
価格¥2,257
順位113,469位
著石井 俊全
発行技術評論社
発売日04/07/2017
高校参考書並みに優しいマセマも活用しよう
高校数学を優しく解説してくれるシリーズが坂田アキラシリーズだとすれば、大学数学を初学者に優しく解説してくれるのがマセマシリーズだ。
微分積分や線形代数、さらにその先の微分方程式や複素関数まで、大学数学の各分野で出版されており、初学者や文系社会人には非常に心強い存在となるだろう。
かくいう私も、マセマにはお世話になった。
特定の分野の勉強を始める前に、マセマをササっと一周終わらせておき、その上で数学書を読み始めると非常に楽になるのだ。
ラング解析入門でもハードルが高いとか、坂田アキラ並みのきめ細かい解説が恋しい、という人は、ぜひ一度マセマシリーズを使ってみることをお勧めする。
価格¥738
順位98,044位
著馬場敬之
発行マセマ出版社
発売日09/18/2019
結構証明が省かれているところもあり、若干暗記寄りなので、数学的な厳密性を欠くという批判をする人もいる。
だが、とにかく分かりやすく、さらに発展的な勉強を行うための素地を作ってくれるので、非常に有用だと思う。
いまいち数学書を使った勉強が捗らないときには、マセマでその分野の参考書がないかを探してみよう。
文系出身で同じく社会人を経て米国大学院の博士課程に進むものです。計量経済学を多用しような学部なので、数学III、Cを勉強し始めたいと思っています。微積と線形代数(行列とベクトル)が基礎になりそうなのですが、線形代数でおすすめの参考書はありますか。教えていただけますと嬉しいです。
今更なお返事で恐縮です・・・。
そのうち記事に書こうと思っていますが、個人的には、
あたりを参照しました。
最近出たものだと、こちらの評判がいいですね。