
既存の論文管理・引用情報管理ソフトは、PDFに手書きメモが残せなかったり、蛍光ペンでのハイライトができなかったりと、何だかんだ痒いところに手が届かない。
そのため、MendeleyやDropbox, Evernoteなど複数のサービスを組み合わせ、引用情報とPDFを分けて管理している人も多いのではないだろうか。
数年前までは、iPadアプリ「PaperShip」が、この問題を解決してくれた。
MendeleyとZoteroのクライアントアプリであり、唯一無二の機能を持っていたPaperShipの素晴らしさは、次のようなものだ。
- 引用情報とPDFをリンクして保存できる
- iPad&Apple PencilやiPhoneで、PDFにハイライトや手書きメモを書き込める
- それらのPDFの注釈(Annotation)情報を、Mac, Windowsと常に同期できる
- MendeleyかZoteroという単一サービスだけで、引用情報管理とPDF管理を完結できる
しかし残念なことに、PaperShipは過去2年以上更新されていない。
今後、iOSのバージョンアップなどで使えなくなってしまう日が来るだろう。大切な文献の管理を、もう更新されることのないサービスに依存するのは危険すぎる。
iPad Proで好きなだけ手書きメモを論文PDFに書き込みながら、それをMacやWindowsとシームレスに同期し、長く使い続けられる論文管理・引用情報管理ツールはないものか・・・。
そんな迷える研究者たちの救世主が、この記事で紹介する「Paperpile」だ。
「Paperpile」は現状最強の文献管理サービス
早速だが、Paperpileの素晴らしさを整理する。
- Google Chromeで全てが完結。大学のPC, オフィスのPC, 自宅のPCのどこからでもアクセス可能
- Google Drive上でPDFが同期されるため、15GB無料&実質容量無制限
- Mac, Windows, iPad, iPhone, Androidの全てで、PDFにコメント、手書きメモ、ハイライトを挿入可能
- 引用情報を投げ込むだけで、自動でPDFを取得
- 論文PDFを投げ込むだけで、自動で引用情報を取得
個人差はもちろんあるだろうが、私にとっては、これまでの不満点の全てを解決してくれる最強のツールである。
この記事ではその素晴らしさのほんの一部を紹介する。
Paperpileは30日間無料でトライアルできるので、気になった人は、その素晴らしさを体験してみてほしい。
その後は基本的には毎月2.99ドルで利用することができる。
Google Chrome上で文献管理の全てが完結
Paperpileの最大の特徴は、Googleのサービス上で全てのツールが完結している点だ。
Paperpileに保存された論文PDFは、全てGoogle Driveに保存され、GoogleドキュメントでPaperpileのExtensionを使えば、文献情報を簡単に引用し、また参考文献一覧を自動更新させることが可能だ。
Google DriveやGoogleドキュメントとの連携を活かせば、同僚との文献の共有や、論文の共同執筆まで容易に実現することができる。

ブラウザ上で動作するため、Google Chromeのエクステンションを除いて、何かアプリを追加で入れる必要もない。
したがって、自宅のPCだけでなく、Google Chromeさえ入っていれば、大学の図書館の共有PCからも、簡単に自分のPaperpileアカウントにアクセスできるのが嬉しいところだ。
もちろん、Windows, Mac, Linuxといったプラットフォームの制約もない。
PDFも引用情報も全て自動取得してくれる神ツール
Paperpileのインターフェースは、とてもシンプルなものだ。

PDFファイルや、Bibtexなどの引用情報を、ブラウザ上でPaperpileのライブラリにアップロードする。
例えばPDFを30ファイルほど一気に投げ込んでも、回線にもよるが1分以下でアップロードが完了し、自動的に引用情報が取得されていく。

PDFの内容に基づいて、Web上で自動的に文献の情報を見つけ反映してくれるのだが、まだ一度も論文の著者や出版年などの情報を手打ちしたことがないからその精度はスゴイ。
逆に、引用情報を先に保存した場合には、Web上でPDFを探索し、自動でPDFをGoogle Driveに保存した上で、引用情報とリンクしてくれるという、神がかり的な機能も持っている。
Paperpileに保存した文献情報は、「フォルダ」「スター」「ラベル」によって整理することができる。

ラベルでプロジェクトごとに管理を行ったり、直近で読むつもりのPDFに目印をつけておくといった使い方が可能だ。
Google Drive同期の利点!手書きメモが便利すぎる
iOSのネイティブアプリは、現在プライベートベータ版が開発中なので、現時点ではiPadなどでPaperpileを直接利用することはできない。
しかしながら、Paperpileに保存した文献は、全てGoogle Driveに保存されているため、iPad, iPhone, Androidなどからも自由にアクセスすることができる。
ハイライトや手書きメモを実現するため、過去に本ブログでも紹介した超高機能なiPadアプリ「PDF Viewer」で、Google Driveに保存されている論文PDFにアクセスしてみよう。

Paperpileに保存したPDFは、基本的にGoogle Drive上の「All Papers」というフォルダに、著者のアルファベットごとにフォルダ分けされて保存されている。
このままでも読むことはできるが、目当てのPDFを見つけるのに時間が掛かってしまう。
そこで、MacやWindowsでPaperpileにアクセスし、読むつもりのファイルに「Star」をつけておくとよい。
スター付きのファイルは、Google Driveで「Starred Papers」というフォルダに移動されるので、簡単にアクセスすることができる状態になるのだ。

こうして読みたいPDFにアクセスすることができれば、あとはiPad ProとApple Pencilを使って、手書きメモやハイライトを書き込み放題だ。
辞書機能を使って、わからない英単語などを調べることもでき便利だ。
もちろん、検索機能、ブックマーク(しおり)機能、コメント追加機能など、自分が使っているPDF管理アプリに付いている機能は全て使える。

さらに素晴らしいことに、Google Driveのファイルが直接編集できるおかげで、iPadで書き込んだメモは、当然ブラウザ版のPaperpileからも閲覧・編集ができる。

Paperpileでは、ブラウザ上で用いるPDFビューアを選択することができる。
手書きメモやハイライトが可能なツールを選択すれば、ブラウザ上からも書き込みが可能だ。
Googleサービスによる汎用性と拡張性が魅力
このように、Google ChromeやGoogle Driveなどのマルチプラットフォームなツールの上に構築されていることから、他のアプリやツールとの高度な連携が可能であることが嬉しい。
MendeleyやZoteroでは、一度保存したPDFは、MendeleyやZoteroを経由しない限りアクセスできないのが普通だ。
この点Paperpileでは、Google Driveに保存されたPDFと引用情報がリンクされているだけなので、Google Drive上の元ファイルに好きなだけアクセスし、好きなだけ編集できるのが素晴らしい。
今後の開発に期待する点
これだけ褒めちぎってきたPaperpileだが、もちろんまだまだ至らない点もある。
これらの問題が致命的で、現状では別のツールを使用せざるを得ない人もいるかもしれない。
- Googleドキュメントのみに対応しているため、Wordなど外部ツールでは使えない
- iOSやAndroidのネイティブアプリはなく、Google Drive経由でPDFにアクセスできるのみ
- 一度紐づけてしまったGoogleアカウントの変更ができない
まず1点目は、Googleドキュメントに全ての文書作成を移行できるかがカギになるだろう。
移行しきれない場合、Microsoft Wordで作業するときには、いつもの引用ツールが使えないことになる。
Word for Macに対応するPaperpile for Wordが現在プライベートベータで開発中なので、近いうちに解消されることに期待したい。
また、iOS対応版も、プライベートベータ版が開発中であるため、近年中にiPadやiPhoneでも引用情報とPDFの両方にアクセスできるようになるだろう。
最後の点は、数年前からPaperpileのフォーラムで指摘され続けており、公式もその問題を認めているが、現状では解決策がない。
Zoteroなどに引用情報とPDFをエクスポートすることは可能なので、致命傷とまでは言わないが、特に研究者や大学生、大学院生は、通っている学校が変わるたびにメールアドレスやGoogleアカウントが変わるものと思われ、不便な思いをするかもしれない。
大学のアドレスを持っているとしても、長く使い続ける自分の私用アカウントをPaperpileにリンクさせることをお勧めしたい。